05) 生まれる前の受容
私たちの妊娠期は「新出生前検査」が始まる前であったため、羊膜に針を入れて、
羊水を取り出す「羊水検査」だけであった。もう一つあるが、それはあくまでも
簡易的なものであり、決定打にはならない。「羊水検査」は決定打にはなるが、
羊膜を傷つける以上、リスクを伴うものである。確率は低いが「0(ゼロ)」ではない。
私たちの場合、やっと授かった子供が、危険を冒して検査することに抵抗を感じた。
羊膜から感染し、万が一のことがあって、結果が何でもなかったらどうしようと思うと、
簡単にお願いしますとは言えない。
それは流産という経験があったからこそ、その思いが強くなっている。
どうしようかと考える日を重ねていく中で、妻は妻なりの、私には私なりの答えを
見つけ、最終的には私たちの結論を見つけたのであった。結局、私たちの選択として、
検査を受けることはやめることにした。
それでも、ダウン症の可能性はぬぐいきれない。そんな中、妻が私に言った言葉がある。
「この子が障害もって産まれたら嫌かい?」
私にはとても重く、締められ続けていた胸を全力でさらに締めつけられるような
言葉であった。それは、頸部浮腫の話が出てからというもの、仕事であろうと、
プライベートであろうと、頭のどこかで常に考えている問題。
自分の仕事上、元気に走り回る子供たちが目の前にいて、「うちの子だけが、
ダウン症ってことはないだろう・・・。」と自分に言い聞かせるようにつぶやいたり、
支援が必要な子供たちを見て、「うちの子にはどのような手立てが必要だろう。」
と決まってもいないことを考えたりもした。真逆なことを考えるということは、
いつも心は揺れ動き、「きっとそうなのだろう」、「いやいやそんなはずはない」という
心の綱引きが行われていたということ。しかし、妻への答えはなかなか出なかったのです。
私は通勤に片道1時間かかるため、考えるには十分な時間が毎日与えられた。
この段階では、子に対する障害の確証が何もない。周りに相談することもない。
毎日毎日自分の気持ちを確かめているような心のやりとりが続き、疲弊していくのが
わかっていた。ただ、どちらか決めかねている自分の心はあったとしても、妻と一緒に
歩んでいく人生の中で、妻の気持ちを尊重し、その困難や事実を受け入れることが
自分の人生なんだと思うようになった。そして、考え始めて2週間くらいしてのこと。
かなり、精神的にはギリギリの状態だったことをしっかりと覚えている。
妻は最初に「この子が障害もって・・・」という言葉を私にかけてからは、その話は
してこなかった。待っていてくれたのだと思う。でも、ある日、今一度その言葉が出た
ときに、私の心は固まっていたので、何の抵抗もなく、「嫌じゃないよ!」と答える
ことができた。心の中では「大切に育てたい。」としっかり思えた。この言葉が出る
までの2週間は、私が障害児のお父さんになるための大きな準備期間であり、試されて
いる時間なのかとも感じた。毎日こっそり泣いていたし、障害を否定するあらゆる可能性
を探していたのも事実である。結局、言葉では割り切ったといいながらも、100%は
あり得ない。ダウン症児を迎える覚悟をし始めたという心の振れ幅が大きくなってきただけ
であって、手放しで喜んでいたわけではないというのが正直なところだ。しかし、
そこまで心を決めてからというもの、不思議とインターネットでの検索をしなくなって
いた。むしろ、妊娠するとよく読まれているであろう某雑誌の付録に、妊娠期間と現状を
見やすいように円形で示した用紙があり、毎日のようにコツコツと経過した日数を黒く
塗りつぶしていくほどの余裕も生まれ始めていた。
生まれる子が障害をもっているかもしれない。十分頭ではわかっていたが、心が追い
ついてはいない。しかし、ゆっくりと歩調が合うような感覚をもちはじめ、自分たちが
まだ見ぬ子供を大切に育てられるような気がしていた。これだと、できすぎた人間に
なってしまうので、もう一つの事実を書き残そうと思います。
それは、精神的負担の保険をかけていたということです。障害をもって産まれてくる
ということは、その当事者の心は大きな負担であることは言うまでもない。様々な書籍を
みても、毎日毎日泣いて過ごしているお母さんの話をよく目にする。父親だって同じはず。
特に私のような小心者は、「ダウン症児が生まれてくるんだな」と対面する前から認識を
しておくことで、実際会ったときのショックを和らげることを考えた。もし健常児だった
らこれほどうれしいことはない。しかし、逆にダウン症でないと思っていながら、実際は
ダウン症だったとしたら・・・私のような人間では受け止めきれなかったかもしれない。
それほどまでに心に与える負担は大きいものだ。加えて、合併症の問題もあるので、
生まれてからすぐにどのような病気の問題に直面し、先天的にどのような異常があるかも
わからない。その心の準備のために保険をかけたのである。
はなは私たちに安らぎを与えてくれる最高の存在です。
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